法則に基づきチームを科学する
新しい組織の発足や、プロジェクトの開始に伴い新しいチームが構築された場合、一からチームを作り上げていく必要があります。作り上げていく過程で様々な問題が発生し、その都度どのように解決するべきかを頭を悩ませます。
その解決にはチームのリーダーが先頭になって立ち振る舞うこともあれば、チームメンバーが一丸となって行動を起こすことがあります。このような状況を多く経験すると、良いチームの定義(形)はケースバイケースのように思えてしまいます。
本書ではこのようなチームビルディングやチームマネジメントを科学的(確立された理論を元)に解説してます。著者自身の経験がベースになっていますが、その背景にある様々な理論もあわせて解説しているため、とても説得力のあるものになっています。
本書はチームの法則を以下の5つにわけ、それぞれを章立てにして解説しています。
第1章 Aim(目標設定)の法則[旗を立てろ!]
目次から抜粋
第2章 Boarding(人員選定)の法則[戦える仲間を選べ]
第3章 Communication(意思疎通)の法則[最高の空間を作れ]
第4章 Decision(意思決定)の法則[進むべき道を示せ]
第5章 Engagement(共感創造)の法則[力を出しきれ]
この中から、Aim(目標設定)、Communication(意思疎通)、Engagement(共感創造)の3つを紹介します。
Aim(目標設定)の法則
チームがチームとして機能するために「共通の目標」が必ず必要になります。
その目標は例えば、製品開発のような「XXまでにこの製品を世の中に出す」というものから、小学校の集団登校における「安全に登校する」といったものまで様々です。
この目標ですが、あればいいというものではなく、「適切な目標設定ができているチームが良いチーム」になります。
適切な目標設定について、本書ではまず3つの分類を定義しています。
行動レベルの目標
チームメンバーが具体的に取り組むべき行動の方向性を示したもの。
成果レベルの目標
チームとして手に入れるべき具体的な成果を示したもの。
意義レベルの目標
最終的に実現したい抽象的な状態や影響を示したもの。
この3つの目標が自分たちのチームにとって良いバランスで設定されている状態が「適切な目標設定ができている」状態になります。
システム開発のプロジェクトでいうと、意義レベルの目標はユーザ企業が設定をし、成果レベルの目標は対象のシステム自体(スケジュールや品質なども含めて)。行動レベルの目標がWBSのような日々のタスク管理レベルの目標になると思います。
Communication(意思疎通)の法則
Communicationの章は、以下の一文から始まります。
「チームにはコミュニケーションが多ければ、多いほどよい」は誤解である
活発にコミュニケーションをとっているチームは良いチームのように見えますが、コミュニケーションにはコストがかかります。コストというのは簡単にいうと時間です。5人のチームの意思疎通をとるのに、一人一人とコミュニケーションを取らないとけないとなると、1人×4人(自分以外の人)×5人(メンバー数)=20のコストがかかります。このコストを払い続けることは効率的ではありません。
では、コミュニケーションコストを抑えるには何が必要かというと、それはルールです。
ルールについても何でもかんでもルール化するとそれはルールを確認するためのコミュニケーションコストが発生してしまいます。
本書ではルール設定のポイントを下記のように定義しています。
ポイント①:What:設定粒度(ルールが少ない⇄ルールが多い)
ポイント②:Who:権限規定(メンバーが決める⇄リーダーが決める)
ポイント③:Where:責任範囲(個人成果に責任を負う⇄チーム成果に責任を負う)
ポイント④:How:評価対象(成果を評価する⇄プロセスを評価する)
ポイント⑤:When:確認頻度(確認が少ない⇄確認が多い)
これらのポイントは対象となるチームの特性によって変わってきます。
この辺りの詳細は本書をご覧ください。
本書ではルール設定について以外にも
「コミュニケーションを阻むのはいつだって感情」
「『理解してから理解される』という人間関係の真実」
「己をさらして心理的安全を作り出す」
といった興味深い内容もありました。
当たり前ですが、人間は心理的な要因に左右される生き物なので、その面をキチンとケアできないと良いチーム作りは難しいです。
Engagement(共感創造)の法則
エンゲージメントとは「チームに貢献しようとするモチベーション」のことです。
このモチベーションを高くするための法則が本章のメインテーマです。
モチベーションを高くする、と聞くと右脳的なイメージがとても強いですが、本書で記載されているものはそうではありません。
エンゲージメントを高めるために4つのPとして以下を定義しています。
Philoshophy(理念・方針)
Profession(活動・成長)
People(人材・風土)
Privilege(待遇・特権)
この4つはどれが高ければ良いというものではなく、該当チームの魅力がどこにあるのか、チームメンバーがどこに魅力を感じるのか、という点で決めて行かなければいけません。
例えば、マッキンゼーのようなプロフェッショナル集団はProfession(活動・成長)に魅力があり、リクルートはPeople(人材・風土)に魅力があります。
プロダクト開発でいえば、世の中の仕組みを変えるような開発はPhilosophyが魅力であり、スペシャリストが集まっている開発集団ではPeopleが魅力になります。
全体的な感想
チームビルディングに関する本は今まで数冊読んだことがありますが、本書が一番理論立てて説明されているものだと思いました。
個人的にはチームマネジメントで一番大切なのはコミュニケーションだと思っているので、本書で書かれているルール設定のポイントや心理面でケアするべきポイントはとても為になりました。
システム開発に携わっているとプロジェクト単位で新しくチームが組成されることが多いので、本書に記載されているポイントは今後に活かせそうです。
編集後記
今年も残り2ヶ月になりました。
ブログ更新のペースはいまいちですが、読書のペースはもっとイマイチなので、インプットもアウトプットも増やせるよう、日々の習慣を見直していきたいと思います。
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