独学大全 読書猿著

書評

何かを学びたいすべての人に

Bitly

知らないことを学習する必要が出てきた時、人は未知の分野を学ぶ、または、既知の分野の不足している知識の補強をするために学びます。ただ、必要性や知的好奇心から学び始めたとしても、学び方(情報収集、向かう方向など)、モチベーション等で壁にぶつかって挫折してしまうこともあると思います。本書はそんな時に拠り所となる一冊です。著者である読書猿さんが培ってきた独学に関する55の技法を750頁以上を割いて説明しています。ボリュームに圧倒されてしまいそうですが、章ごとに設けられている「無知くんと親父さんの対話」が良い小休止になり、非常に読みやすいです。

本書は何かを学びたいすべての人に読んで欲しい一冊です。特にじっくり自分の知的好奇心を満たすための学習をしたり、語学・数学・歴史・哲学・宗教・芸術などのリベラルアーツを学ぶ時に参考になります。紹介されている技法はもちろん普段の読書にも適用可能です。(本の読み方の技法もあります)

本書は単なる勉強法だけを書いたものではありません。
独学を志す人に向けて以下の部構成で書かれています。

第1部 なぜ学ぶのかに立ち返ろう
第2部 何を学べばよいかを見つけよう
第3部 どのように学べばよいかを知ろう
第4部 独学の土台を作ろう

目次

なぜ学ぶのか」→「何を学ぶのか」→「どのように学ぶのか」という流れがあることで、独学する際のあらゆる局面で参照が可能な形になっています。そのため、読者が置かれた状況に応じた使い方ができます。第4部は独学する際の土台となる「国語」「英語(外国語)」「数学」を学ぶ時の技法の使い方(ケーススタディ)が書かれており、こちらもとても参考になります。

本書は著者が本文の中で参考にしている書籍、論文などの引用もたくさんあり、一次情報を知りたい人にはとても親切です。また、大全というだけあって、索引も34頁あり(750頁の外数)後からキーワードを知りたい人にも優しい構成になっています。

独学者とは、学ぶ機会も条件も与えられないうちに、自ら学びの中に飛び込む人である。
(中略)
独学者は、学ぶことを誰かに要求されたわけでも、強いられたわけでもない。
独学者の学びは、何事にも責任を負わず拘束されないかわりに、何によっても保障されない。一方的に与えられる教材もなければ、口うるさくもお節介に進捗を監視してくれる指導者もいない。怠けて留年するわけでもないが、どれだけ励んでもそれだけでは利益や称賛が得られるわけでもない。
学び始めるのも止めるのも、何を選んで学ぶかも独学者の自由だが、その反面、挫折・中断しがちであり、また安易な道や視野の狭い思い込みにも陥りやすい。
(中略)
本書は、賢くなり続けるのに必要なもの、すなわち学び続けるための賢さを提供するためのものである。
そのためにヒトの認知と行動についての「仕様」を知り、それに基づいて知識とは何か、学ぶとは何かを考察し、歴代の独学者たちが開発してきた方法をそれらの基礎の上に再構成した。
独学を成功させるには理性が必要だが、理性を知ることと学ぶことによって強化できる。

序文 学ぶことをあきらめられなかったすべての人へ

上記引用部分には独学者の定義と本書の意義について書かれています。学びたい欲求はあるものの明確な制約がないため、挫折しやすい独学という行為に対して、本書では認知と行動を知るところからスタートします。つまり、人間のスペックでは「気合い」や「やる気」だけではどうしよもないことを知り、その上でどのように学ぶのかということを55の技法にまとめています。

技法6:行動記録表(自分も知らない自分の行動を知る)
 ① 未来の予定が書いてある手帳を用意する
 ② 実際に1週間、行動を記録する
 ③ 予定と実際の記録を比較する

行動記録表は、その名のとおり、自分の行動を記録していく技法である。
なぜ、わかり切った自分の行動をわざわざ記録する必要があるのか。
その理由は、我々は、自分の行動を(自分が信じているほどには)よく知ってはいないからである。
(中略)
計画する人は多いが、実態を記録する人は少ない。
(中略)
つまり自分の行動を記録すること自体が、行動を改善する効果を持っている。

技法6 行動記録表

予定をたて、実績を記録し比較し改善するというのは、通常のビジネスではPDCAとして定義されていますが、独学においてもその効果は大きいです。私も本書で紹介されているTogglというツールを使って時間の記録を録り始めたところ、何にどの程度の時間がかかっているかがわかるようになりました。これだけでも大きな進歩です。

技法12:ラーニングログ(独学の進捗と現在地を知る)
 ① ラーニングログを用意する
 ② 最初に「学習目標」を記入する
 ③ 記録方法を決める
 ④ 学習したら、すぐに記録する
 ⑤ 定期的に「ラーニングログ」を読み返す

独学では、あたなの学習の進捗を見守り、挫けたら励まし、怠けたら叱咤してくれる者はいない。自分がどこにいるかを知り、同時に自分を励まし叱咤する仕組みが必要だ。
ラーニングログは、独学という航海をするための航海日誌(ジャーナル)である。
(中略)
この記録が累積することで、独学者は自身の「現在位置」を知ることができる。
(中略)
自分を叱咤激励するよりも、そしてやらなかったことを悔やみ自責の念にかられるよりも、行ったことをただ淡々と記録すること。
自分が日々わずかであっても、どれだけ進んだかの航海日誌(ログ)をつけること。
そうして自分の現在地点を把握し続けることが独学者の長い旅を支えていく。

技法12 ラーニングログ

独学を進めていく中でゴールに対する自分の現在地と今までどのように進んできたかを知ることはモチベーションの面でも重要なことです。積み上げたノートの数でもいいのですが、具体的にどの本のどこまでを読んだのか、問題集のどこまで進めたのかを見える形で記録していくと自分の学習の軌跡がわかります。本書を読んでGoogleスプレットシートを利用したラーニングログを録り始めました。書籍の目次単位でいつ読んだか(もしくは作業したか)の日付を記録する形にしています。簡易な形ですが、全体感に対する現在地がわかるため、非常に有用です。

人は何かを知りたいと思う時に学ぶ行為をします。それはインターネットでの検索で調べられるものもあれば、調べる方法から調べる必要があるものがあります。本書は後者のアクションをとるすべての人に対して、動機付け・ゴール設定・文献の調べ方・継続させる方法を技法という形で提供してくれています。引用した序文にも記載がありますが、独学者は誰に強制されるわけでもありません。いつ始めるのもいつ止めるのも自由です。それでも何かを学ぶことに対して意欲がある人は是非本書を読んで欲しいです。

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