FACTFULNESS ハンス・ロスリング他著

書評

バイアスがかかった物の見方を回避するための10のルール

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2019年1月に日本で発売された本書は様々なところで紹介され、とても有名な書籍です。2年近く積読状態だったものを引っ張り出してようやく読みました。
Amazonの紹介文にもありますが、本書は貧困、富、人口、出生、死亡、保健、ジェンダー、環境など13のクイズに答えることからスタートします。それ以降、それぞれの回答についての解説と今現在の世界がどのような状況にあるのかと言うこと、私たちが事実を見る際に持っているバイアス(思い込み)が事実をどう歪めているかを解説しています。

本書はあらゆる世代の人に読んで欲しい一冊です。日本のような平和で安全な島国にいると世界がどのように変わっているのかに対して鈍感になりがちです。メディアから流れてくる情報だけでなく、国連などの機関が発表しているデータを元に世界を見ることの大切さが本書を読むことでわかります。

本書の特徴は読者が最初に答えるクイズを殆ど間違えるところからスタートすることです(本文中でも地球温暖化に関する質問を除く12問の正解数の平均は2問だったそうです。ちなみに、私は1問しか正解できませんでした)。読者は「なぜ、自分は回答を誤ったのか?」と言う疑問を持ちながら本書を読み進めることになります。本書はその理由を10個の思い込みにあると解説します。

10個の思い込みを本書では「ドラマチックな本能」という定義のもと各章で解説しています。

第1章 分断本能 「世界は分断されている」という思い込み
第2章 ネガティブ本能 「世界がどんどん悪くなっている」という思い込み
第3章 直線本能 「世界の人口はひたすら増える」という思い込み
第4章 恐怖本能 「実は危険でないことを恐ろしい」と考えてしまう思い込み
第5章 過大視本能 「目の前の数字がいちばん重要」という思い込み
第6章 パターン化本能 「ひとつの例にすべてがあてはまる」という思い込み
第7章 宿命本能 「すべてはあらかじめ決まっている」という思い込み
第8章 単純化本能 「世界はひとつの切り口で理解できる」という思い込み
第9章 犯人捜し本能 「だれかを責めれば物事は解決する」という思い込み
第10章  焦り本能 「いますぐ手を打たないと大変なことになる」という思い込み

目次

ドラマチックな本能とは、「ドラマチックすぎる世界の見方」を生み出す元となる本能のことです。多くは「そう思いたい」「そうに違いない」と言う思い込みです。

「わたしたち」は「あの人たち」を何と呼ぶべきか?4つのレベルで考えよう
わたしはよく講演の中で、「途上国」と言う言葉を使うべきないと唱えている。
だから、話のあとで「では、わたしたちはあの人たちを何と呼ぶべきですか?」と聞かれる事が多い。しかしよく考えてみると、この質問も勘違いのひとつだ。「わたしたち」と「あの人たち」と言う言葉自体が間違っている。
(中略)
世界を2つのグループに分ける代わりに、所得レベルに応じて4つのグループに分けてみよう。

分断本能

世界の人口70億人を1日あたりの所得で分けると以下のようになります。
 2ドル以下(レベル1):10億人
 8ドル以下(レベル2):30億人
 32ドル以下(レベル3):20億人
 32ドル超(レベル4):10億人
本書を読むような人はレベル4に位置しています。レベル4の人はレベル1-3の間の生活水準の違いを理解していないため、「自分たち」と「それ以外」に線引きをしてしまいます。
この弊害は何かというと、例えば貧困という問題に対して、誰に対して何をしなければいけないかということを誤ってしまう可能性があるからです。
レベル1の人向けの支援はレベル2の人は必要としていません。どんな支援が必要なのかということを正確に把握するためには、世界を2つに分断してはいけないのです。

名もなきヒーローたち
物事がうまくいかないときには、「犯人を捜すよりシステムを見直した方がいい」と訴えてきた。では、物事がうまくいったときはどうだろう?そんなときには「社会基盤とテクノロジーという2種類のシステムのおかげだ」と思った方がいい。

犯人捜し本能

本書では社会情勢や政策について上記記述がありますが、これはビジネスにも適用できることだと思いました。ビジネスがうまくいかなかったりすると「誰が悪かったのか?」という話が必ず出てきます。もちろん「責任者」というロールの人がいるので、「責任」はありますが、犯人はいないと思った方がいいです。基本的には「仕組み」「ルール」「プロセス」に問題があることが殆どだからです。この3つのいずれかにバグがあって、「たまたま誰かがそのバグを発見しただけ」という状況が結果的に「失敗」に繋がってしまっただけです。
この考え方なしにうまくいかなかった原因を「人」に求めてしまうと、「人」を排除して終わってしまい、根本原因が全く解決されず、不具合はループしてしまいます。安易に犯人捜しに流れてしまうリスクを本章ではわかりやすく述べています。

冒頭でも記載しましたが、本書では13のクイズをトリガーに「我々が世界をいかに正しく見れていないか」を10の本能をベースに説明しています。10の本能は基本的には、知識不足に伴う思い込みなのですが、自分達の身近な部分だけ、メディアで報道されているところだけが進歩していると考えてしまうことが大きな問題です。ファクト(数字をベースにした事実)は日々変わっています。これをキャッチアップせずに過去の延長(直線本能、宿命本能)で考えてしまうと、事実を見なくなってしまいます。
本書の内容は世界の見方だけでなく、ビジネスにも通ずるところが多くあります。著者も本書の中で「数字を見ないと、世界のことはわからない。しかし、数字だけを見ても、世界のことはわからない。」と述べています。数字と数字の裏にある物語を見るようにすると、良い方向でビジネスができるのではないかと本書を読んで思いました。

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