新型コロナの科学 パンデミック、そして共生の未来へ 黒木登志夫著

書評

新型コロナウイルスとは何者なのかを科学的にわかりやすく解説した一冊

Bitly

新型コロナウイルスが世の中を騒がせ始めて1年が過ぎました。このウイルスの感染者が出てきた当初はわからないことも多く、未知のウイルスに対して漠然とした不安だけがありました。本書は2020/10までのデータを利用して分かったことを科学的な視点で書かれたものです。新型ウイルスとは何か、感染対策の根拠、検査法、治療について一般の人にもわかりやすく書かれた一冊です。

人は分からないものには漠然とした不安を抱きます(私もその一人です)。そして、心理的に安心したい情報を信じやすくなります(「新型コロナはただの風邪」とか)。物事を客観的に捉えるためには、その分野の専門家が過去の経験などから定義している科学的な論拠が非常に重要で、それをベースに立てた対策は効果を上げます(三密対策など)。日々のニュースやSNSでは感染者数や医療逼迫が大きく取り上げられています。これらの情報は1日の断面を表しているに過ぎません。本書は新型コロナウイルスを正しく理解し、正しく対策をしたい方におすすめです。

本書はがんの基礎研究者であったサイエンスライターの著者が、パンデミックの歴史、ウイルスとは何か、といった基本的なことから、新型コロナウイルスによるパンデミックの経緯、各国の対策、予防法・治療法まで幅広く書かれています。科学的な内容なのですが、数式などは必要な箇所を除いてなく、挿絵も分かりやすく本文を補足してくれています。

本書の中で、著者の意見としての日本の対応ベスト10、ワースト10があります。以下、理由部分は割愛して引用します。理由は是非本書にて確認してください。

<<ベスト10>>
①国民 ②三密とクラスター対策 ③医療従事者 ④保健所職員 ⑤介護施設 ⑥専門家の発言 ⑦中央、地方自治体の担当者 ⑧ゲノム解析 ⑨在外邦人出便 ⑩新型コロナ対応・民間臨時調査会

<<ワースト10>>
①PCR検査(不徹底) ②厚労省 ③一斉休校 ④アベノマスク ⑤首相側近内閣府官僚 ⑥感染症対策の遅れ ⑦分科会専門家 ⑧スピード感の欠如 ⑨情報不足 ⑩リスクコミュニケーション

第7章 日本はいかに対応したか

コロナウイルスは、ウイルス学的には、アルファ、ベータ、ガンマ、デルタの4グループに大きく分類される。SARS、MERS、新型コロナウイルスはベータグループに属する。機能的には次のように分類できる。
・ヒト風邪のウイルス(HCoV):風邪の10-15%はこのウイルスによる。ほとんどの子供は6歳までに感染する。軽症だが、高熱を発することもある。
・SARSウイルス(SARS-CoV):SARSの原因ウイルス。コウモリ由来。
・MERSウイルス(MERS-CoV):ヒトコブラクダに風邪症状を起こすコロナウイルス。人に感染して重症の肺炎を引き起こすようになった。
・新型コロナウイルス(SARS-CoV-2):現在パンデミック中の病因ウイルス。コウモリ由来。
・動物コロナウイルス:あらゆる動物に感染し、さまざまな症状を起こす。

第1章 新型コロナウイルスについて知る

学術的には新型コロナウイルスは他のコロナウイルスとは別のものとして定義されています。
ちなみに、新型コロナウイルスの名前がSARS-CoV-2となっているのは、ゲノム解析の結果としてSARSウイルスと80%似ていることから姉妹種として定義されたらしいです。(特徴はだいぶ違いますが)
その主な特徴は以下の通りです。
 (1) 感染しても軽症者が多い(軽症者80%、重症者20%)
 (2) 潜伏期が長く発症前から感染する。つまり無症状者から感染する。
  (インフルエンザは潜伏期は短く、感染するのは発症する直前から)
 (3) 感染ルートは飛沫/エアノズル、接触感染(前者にはマスクが、後者には手洗いが有効)
 (4) 嗅覚障害・味覚障害が起きる

この中でSARSウイルスと大きく違うのが(1)です。SARSウイルスは感染するとすぐに重症化します。そのため、感染者は動き回ることができず、ウイルスは広がりません。また、致死率も高いため、感染者がなくなるとウイルスも死滅します。(ウイルスは単体では生き残ることができないため)
新型コロナウイルスは軽症者・無症状者が多いため、どんどん感染が広がっていきます。このような特徴を見ると、新型コロナウイルスはなくなることはなく、今後も人類と共生していくことが分かります。

再生産数(R:Reproduction number)は、一人の感染者が何人に感染させるかを示す数字である。Rが2であれば、感染している期間に二人に感染させることになる。Rが以下になれば、一人の感染者から感染する人は一人以下になるので、感染は縮小に向かう。

(中略)

西浦博は「8割おじさん」と呼ばれていた。人と人とのコンタクトを8割下げようと繰り返し主張したためである。何故、8割なのか。Rを2.5とすると、その8割減は0.5となる。すなわち、感染は縮小に向かうからである。

第3章 感染を数学で考える

専門家会議のメンバーとして西浦先生がメディアで上記内容を話していた際、「8割」というワードが先行してしまい、脊髄反射的に「無理だ」という反応が多かったように思えます。
数学的に考えると上記の通り、再生産数を下げることが目的であることから右脳ではなく、左脳で反応するべき事なのに、世の中的にはそのような反応ができませんでした。
ちなみに、東洋経済のサイトによると3/8時点のRは1.02です。

新型コロナウイルス 国内感染の状況
日本国内において現在確定している新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の状況を厚生労働省の報道発表資料からビジュアル化した

ワクチンは、感染してから免疫に至る過程を安全なかたちで再現し、身体に免疫を作ろうという戦略である。このため、相手とそっくりなまがいものが、ワクチンとして使われることになる。ワクチンを投与すると、感染と同じ免疫のメカニズムが動き出す。樹状細胞がワクチンを取り込み、ヘルパーT細胞を介して免疫を発動し、病気を直すという戦略である。

(中略)

人々は、ワクチン接種により自分が感染しないことを期待しているが、ワクチンには同時に接種を受けてない人々を守るという集団免疫への期待がある。すなわち、集団の大部分の人が免疫を持っているとすると、感染する人が非常に少なくなり、結果として免疫のない人も守られることになる。これを集団免疫と呼ぶ。

(中略)

以上の理屈から、ワクチン接種によってコロナウイルスに対する集団免疫を獲得するためには、60%の人が免疫を獲得すればよい計算になる。しかし、ワクチンの効果が50%以下では、この数字に達せず集団免疫は期待できない。

第11章 新型コロナ感染を予防する

世界でワクチンの接種が始まり、日本では2021/2から医療従事者向けに接種が開始されました。日本の人口(1.256億人)の6割である約7,500万人の人に免疫ができれば、集団免疫が実現できます。ファイザーとモデルナのワクチンは効果が90%以上あるので、集団免疫への期待が持てそうですが、まだまだ時間はかかりそうです。(有効率が90%だとすると、約8,400万人の接種が必要)

紹介は割愛しましたが、本書では武漢から始まったパンデミックの経緯や日本での広がり、対応についても詳しく記載されています。未知のウイルスはこれからも必ず出てきます。その時に本書に記載されていることをきちんと理解し、把握することで正しい予防、正しい行動ができるものだと思いました。日本の場合、2009年に発生した新型インフルエンザ(A/H1N1)の対策総括で提言された内容が全く実行できてなかったことが今回明らかになっています。今回の新型コロナウイルスに対する振り返りをきちんとし、次に生かす必要があると思いました。

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