デジタル化を進める上でやるべき観点と、掴むべき産業構造の変化
ここ数年、「デジタル化」「DX」といったキーワードがメディアなどでよく取り上げられ、昨年からはコロナの影響により、その流れが一気に進んでいます。
国も2021年秋にはデジタル庁を作って、非効率と言われ続けている省庁のシステム連携の円滑化やデータ活用などを進めるとしています。
では、デジタル化とは一体なんなのか?ビジネス構造はどのように変わっていくのか?
本書はこのような疑問点を「アフターデジタル」というキーワードと、日本よりも数段デジタル化が進んでいる中国での事例を元に解説しています。
これから起こるであろう変化の方向性や、デジタル化というキーワードの理解が曖昧な方にお勧めです。事例が多いので、具体的なビジネスケースを見ることもできます。
アフターデジタル概論
リアル社会で起きていることをデータで捉えることができ、その時々によって最適な顧客体験を届けることができる社会を本書では「アフターデジタル」と読んでいます。
アフターデジタルを知るためのキーワードは以下の4つです。
(1) 行動データ
(2) 状況ターゲティング
(3) バリュージャーニー
(4) アフターデジタル型産業構造の変化
上3つはスマホやIoT機器が浸透したことによる変化になります。
今まで顧客に関するデータの種類は静的なものでした。つまり、属性データです。それがスマホやIoT機器などの浸透によりデータの発生元や時系列でのデータ収集ができることになったことにより、動的なデータ(行動データ)が取れるようになりました。
動的なデータが取れるようになると、ターゲット設定も静的なものから動的なものに変化します。
その人の状況にあったサービスを提供できるようになります。
そして、提供するサービスについても全てがオンラインで完結するのではなく、適切なオフライン誘導により、顧客目線の顧客体験が提供できるようになります。
この一連の流れを提供できるようになることがアフターデジタル社会で成功する肝になります。
4つ目の産業構造の変化については、以下の3つのレイヤが構成されると本書では述べられています。
トップに君臨する「決済プラットフォーマー」はペイメントを押さえることでユーザの好みや支払い能力に関する価値の高いデータを取得し、さらに、包括的にデータを取得できるため、最も顧客理解の解像度が高くなります。
2番目のレイヤーとなる「サービサー」は、移動、飲食、旅行、動画、音楽など、業界ごとの覇権を握るプレイヤーが位置します。圧倒的なUXによって圧倒的なユーザー数と粘着度を持ち、その業界における詳細な行動データを抱えています。
一番下に位置する「メーカー」は、上の2つのレイヤーのデータがなければ正しくモノを売ることができません。サービサーにユーザーの関心や接点が集まっているため、サービサーのための部品(カーシェアサービスのための車やドライブレコーダー、デリバリーのためのバイクや自動車など)を作る下請けになる可能性さえあります。
日本では決済プラットフォーマーが乱立しているため、君臨している会社はありません。
ただ、「サービサー」の位置づけとなる会社が顧客との接点を多くもち、ビジネスを展開していくという形はあるように思いました。
OMO(Online Merges with Offline)
アフターデジタルという社会的な変化に対し、企業は対応をせねばならない。この対応において、成功している企業が共通で持っている思考法のことをOMOと言い、オンラインとオフラインを分けて考えず、一体のジャーニーとして捉える考え方のことである
OMOという考え方で重要なのはただ単にオンラインからオフラインへの誘導するのではなく、顧客目線を重視すること。つまり、顧客が誘導されて「嬉しいか」「利益があるか」ということです。
会員登録後の無意味なpush通知ではあまり意味がなく、通知により誘導された顧客が良い体験になることが重要です。
考え方はわかりますが、サービスを設計するとなると非常に難しいと思いました。
全体的な感想
デジタル化が進む中でビジネスをどのように進めていくのか、世の中としてはどのような方向で進んんでいるのか、の概要がわかる一冊です。アフターデジタル時代における産業構造の部分は「なるほど」という部分が多かったです。
著者が中国でビジネスをしていることもあり、中国での事例が豊富です。
中国では決済プラットフォーマー(アリババ、テンセント)を軸に様々なビジネスが展開されています。私もコロナ前の2019年に中国に行きましたが、本当に便利なサービスがたくさんました。
QRコード決済(本当にどこでも使える。逆に現金は嫌がられる)は勿論のこと、スマホ1つでタクシーは呼べるし(安いし、運転後に評価されるから丁寧)、デリバリーはホテルのフロントまできてくれるし(こちらも評価されるから、早くて丁寧で安い)。言葉で表現すると日本でも同じようなことをできるのですが、体験すると日本とは全然違いますね。競争の違いなのかもしれません。
本書にもありますが、今後日本が中国や行政サービスのIT化が進んでいるエストニアのようにはならない(文化的な背景も違うし、環境も違う)ので、日本という環境の中でどのようにデジタル化を進めていくのかを考える必要があると思いました。
編集後記
アリババ(アントフィナンシャル)に関しては、以下の書籍に詳しく書かれています。
アリペイのトランザクション量は12万件/secだそうです。ゾッとする量です。
エストニアに関しては、以下の書籍に詳しく書かれています。
日本のマイナンバーもうまく活用すれば、エストニアのように便利になるのかもしれません。
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