ソフトウェア・ファースト あらゆるビジネスを一変させる最強戦略 及川卓也著

書評

ITを武器にしてビジネスを展開するための戦略

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近年はITをビジネスに活用することが当たり前になっており、ITがなくてはビジネスができないと言っても過言ではありません。
ITをビジネスに活用する取り組みは、数十年前からありますが、これまでは業務効率化による人件費削減などの守りのITが中心でした。

しかし、ここ数年はサービスが社会に浸透し、ビジネスモデルも大きく変化しています。それに伴い、企業のIT活用方法を変えていく必要があります。

本書はそんな社会に対するITの浸透度の変化に対して、企業はどのようにITを活用し、事業を行えば良いのか、ソフトウェア・ファーストというキーワードをベースに戦略的に書かれています。

著者の及川さんはマイクロソフトやグーグルでプロダクトマネージャとして活躍した後、現在はテクノロジー活用の観点で企業向けアドバイザーを行っています。

プロダクト開発に長年携わってきた経験と、現在の事業会社の状況、今後とるべき施策が明確に書かれています。

IT業界に携わるSIerやネット企業の方はもちろんですが、それよりも事業会社の方にお勧めの一冊です。

ソフトウェア・ファーストとは

ソフトウェア・ファーストとは何か?本書の定義では、以下の通りです。

本書のタイトル「ソフトウェア・ファースト」とは、IT(とそれを構成するソフトウェア)活用を核として事業やプロダクト開発を進めていく考え方です。決してソフトウェアがすべてということではありません。ソフトウェアは一つの手段です。

手段の一つとしてのソフトウェアの重要性が高まっている理由は社会のサービス化にあります。

社会のサービス化とは、テクノロジーを土台にしたビジネスモデル(プロダクト)の変化です。始めはアナログからデジタルへの変化、その後インターネットを通じた大きな変化によりサービス化は進んでいきました。

サービス化が進むとプロダクトの提供方式も一方的なもの(パッケージで提供したら終わり)でなく、双方向なものになります。利用者はプロダクトを通じて、フィードバックを行うことができ、提供者はそれを元に改善を行います。
プロダクトの開発手法もそれに合わせて変化して行っていて、フィードバックをプロダクトに取り込んで、改善していく手法(アジャイル開発やDevOpsなど)も浸透してきています。

日本の課題と光明

現在の日本はテクノロジー分野において他国に遅れを取っています。本書ではその要因を3つ挙げています。

要因1:ITを「効率化の道具」と過小評価
要因2:間違った「製造業信奉」から抜け出せない
要因3:サービス設計〜運用面での誤解

要因1について、個人的な経験を踏まえて述べたいと思います。

私がこのIT業界に入った20年はアナログからデジタルへのIT投資が盛んでした。
具体的には
 ・紙で行っていた作業をPCを利用した作業に置き換える
 ・デジタル化できたデータを元に作業を一部自動化する
 ・社外とのやりとりもアナログからデジタルにおきかれる
などです。

アナログからデジタルへのIT投資については、この20年間変わらず行われており、
人間の作業を代替するためのIT(いわゆる守りのIT)が日本におけるIT活用です。

アメリカなどの企業はITの可能性に気付き、あらゆる分野に適用していきました。
その結果、様々なサービスが生まれ、プラットフォーマーと呼ばれる巨大IT企業が生まれました。

このようにIT活用に関して大分遅れを取っている日本ですが、本書の中では「日本企業復活の糸口」が示されています。(詳細は本書をご覧ください)

ソフトウェア・ファーストの実践

サービス化する社会で、様々な課題を抱えている日本企業ですが、ソフトウェア・ファーストを実践するために必要なことはIT活用を手の内化することです。

本書では、デジタル・トランスフォーメーション(DX)を例に取りながら、手の内化に必要なことの説明をしています。DXの定義はIDC Japanのものを参照。

企業が外部エコシステム(顧客、市場)の破壊的な変化に対応しつつ、内
部エコシステム(組織、文化、従業員)の変革を牽引しながら、第3のプラ
ットフォーム(クラウド、モビリティ、ビッグデータ/アナリティクス、ソ
ーシャル技術)を利用して、新しい製品やサービス、新しいビジネス・モデ
ルを通して、ネットとリアルの両面での顧客エクスペリエンスの変革を図る
ことで価値を創出し、競争上の優位性を確立すること

IDC Japan

このDXを実現するために、まず事業会社が行うことはブラックボックスとなっている既存のシステムを自分たちで直せるくらい理解することです。
事業会社のシステムは概ねSIベンダーなどの外部業者に委託して作っていることが多いです。そのため、ITを武器に新しいことをやろうとしても、すぐに構築することができません。

スピード感を持ってITを活用するためには、内製化を進めて、すべてのフェーズをコントロール可能とする。そして、システムをブラックボックスにしない、ということが非常に重要になります。

事業会社が内製化を進めるためには、まず経営者が適切なリテラシーをもち、ITに対する理解を深める(理解する姿勢を持つ)必要があります。
ITに関しては、IT担当役員に任せると言った姿勢では、IT活用を経営面でドライブすることはできません。

トップの意識を変える、組織を変える、人材を育てる(もしくは採用する)、少なくともこのようなことをしないと、ITを手の内化する準備をすることができません。

本書では組織に必要な役割や役割毎のキャリアについても記載されています。

全体的な感想

現在の日本企業(特に事業会社)が置かれている状況や今後目指すべきIT戦略がわかりやすく書かれており、非常に勉強になりました。

エントリーからは割愛しましたが、実際のプロダクト開発のプロセスやキャリア論などの記載もあり、すぐに利用できる内容満載です。

企業のIT活用に関しては、経済産業省のDXレポートでも指摘している通り、レガシーシステムがブラックボックス過ぎてデジタル化対応が進まない状況になっています。(最近のバタバタを見ると国のシステムも大分縦割りですが。。。)

本書でも指摘がある通り、ソフトウェア・ファーストを実現するためにもまずは、ブラックボックスになっている自社のシステムを手の内化して、今あるシステムをビジネスにどのように活かすのか、という戦略を練る必要があります。
個人的には手の内化する際には、EA(EnterpriseArchitecture)の考え方も取り入れて進めるのが良いと思っています。

いずれにせよ、今後日本では他国のように、事業会社が主体的にITに関わるようになっていくと思うので、それに向けた備えをしていく必要性を感じました。

編集後記

本書を読んだのは実は昨年の後半です。
エントリーを書くために改めて目を通しましたが、サービス化やプロダクト開発などに関する記述は非常に役に立つものでした。

「キャリアパスを考える」という章で以下のどれを志向するのかという記載がありました。

・エンジニアを極める
・エンジニアリングマネージャを志向する
・プロダクトマネージャを志向する

私はどれに当たるのかはじっくり考えていこうと思います。

コメント

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